フレディの曲作りは、ご本人が語るところによれば、基本メロディ先行型。マック氏やラッティ氏によると、パッと浮かんできたフックを捕らえて、比較的短時間で書き上げるスタイルだという。
“He Was Music”: Reinhold Mack On Working With Freddie Mercury
https://www.udiscovermusic.com/stories/reinhold-mack-queen-freddie-mercury-interview/
もちろん例外的な曲も、いくつもあるだろうけれど『The Fairy Feller’s Masterstroke』も、本人曰くその1つ。有名すぎるエピソードですが、せっかくなので書くことにしました。
『 I was using his text』
「彼のテキストを使った」
彼のテキスト…これが意味するのはダッドの手記だと思う。
画家リチャード・ダッドについて。パトロン付きの将来を嘱望された画家リチャード・ダットは、旅周りの創作活動のなかで精神を病み、脅迫的思考から父親を殺害。父殺しの罪により収監される。かの絵はダッドが獄中で9年をかけて描く。しかし収監先のベスレム病院からブロードモア刑務所病院へ移監される中で未完に終わる。ハシバミの実の一部、樵の斧、渦巻く草の一部はスケッチのまま下絵の状態。
書籍:小柳玲子『リチャード・ダッド』1993 岩崎美術社によれば、比較的近年、ダッド自身がこの絵について書いたまとまりのない24ページに及ぶ手記(詩)が発見される。
気になるのはフレディの言葉。「徹底したリサーチから、彼の言葉を借りた」これは、どういう手段を使ったかはわからないけれど、フレディはダッドの手記に辿り着いていると思われる。
現在、手記は文字起こしされ、全文ネットで公開されている。
Elimination of a Picture & its Subject—called The Fellers' Master Stroke
せっかくなので、ダッドの手記と、フレディの歌詞を比較してみる。
比較に用いた歌詞はレコード付属の歌詞カードから
赤ラインがダッド手記との重複部。
緑字は多少表記が違う部分、ダッドの言葉が緑。
第1ヴァースの被りは表題くらい。
情景描写のこの部分はフレディの創作。
第2ヴァース。Ploughman, "Waggoner Will", and types(百姓、荷馬車の運転手、とその類)あったー!手記にあったー!
Pedagogue(教師)でてくるー!わーー!いたーーーー!!いるいるーーー!など、画像の赤線の通り、ぞろぞろ。
これは『確実に』この手記を見て書いている。
そして、キャラクター呼称を手記から取り、その情景描写、並びにフレディのいう通り、細部を整え韻を踏むリリックに仕上げてある。
フレディの徹底したリサーチ。
テートギャラリーのみならず、ブロードモア刑務所病院とかにもいったのかしら。手記には出てこないけれど、歌詞中にダッドの作品『Contradiction: Oberon and Titania』のオベロンとティターニアも出てきます。(上の方にあげたダッドの写真で彼が描いている作品)今でこそ、簡単にネットで見られる手記ですが1973年に、この情報にたどり着くのは、かなり大変だったと思われる。
感情の振幅が超絶でかいフレディ。この絵を見て、すごい衝撃を受けて、感動をそのままに曲に落とし込んだのだろう。どれほどこの絵に魅了されたかが伝わってきますね。
2023年、フレディ・マーキュリーがガーデンロッジに残した私物が一括でサザビーズオークションに出品されました。(オークション情報はブログにまとめています)
オークションのラインナップの中には、リチャード・ダッド関係の書籍、フレディが持っていた絵の切り抜き、手書き詩がありました。非常に貴重な資料です。是非リンクをご覧ください。
フレディが所蔵していたダッド関係の書籍はインターネットアーカイブで全ページ閲覧することができます。
David Greysmith. Richard Dadd, 1973
https://archive.org/details/richarddadd0000davi
P. Allderiege. The Late Richard Dadd, 1974