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執筆者の写真QUEEN NOTE

フレディと浮世絵

2023.8.12追記

先日Getty Imagesに1枚の写真が新たに追加された。


写真自体は、広く拡散されているものだったけれど、Getty Imagesに掲載されることの何が素晴らしいかといえば、写真の背景情報が付記されることにある。(間違っていることもあるけれど)これが推し活の重要な燃料となる。


さて、上記の写真ですが、Gettyの情報で


撮影時期:1977年10月

撮影場所:スタッフォードテラスのフレディの自宅

一緒に写っている方:作家のNicola Bayley氏


であることがわかりました。


美しい動物の絵を絵本などに添えらていたニコラさん。

芸術家の彼女にフレディが見せているものはなんだろうか。



写真を拡大し、回転させてみると浮世絵であることがわかる。


今更、私が語ることでもないが、フレディは日本文化への造詣が深い。


おそらく、フレディが最初に浮世絵を手にしたのは1976年。

浮世絵に興味津々だったフレディに、当時ステディだったデヴィット・ミンスがオークションハウスを紹介、のちに喧嘩になるほどの買い物をフレディはすることになる。


ここでフレディの版画(浮世絵)好きがわかる記述をいくつか紹介する。

まずは、ピーター・"フィービー"・フリーストーンによる回想です。


Other than his beloved London, Freddie’s favourite place on earth was Japan. He loved everything about Japan, except sushi and sashimi! He hada lovely collection of lacquered boxes, much of his furniture had Japanese motifs, a lot of his crockery and porcelain was from there, and he wasacknowledged at one time as having one of the largest collections of antique Japanese wood block prints in a private collection in the UK. He alsohas numerous Hakata dolls, The porcelain dolls painted with lifelike colours in glass cases dotted around the place.

彼の大好きなロンドン以外で、フレディが地球上で一番好きな場所は日本でした。彼は日本のすべてのもの(寿司と刺身以外)が大好きでした。漆塗りの箱の素敵なコレクションを持っていたし、家具の多くは日本をモチーフにしていたし、食器や磁器の多くは日本のもので、日本のアンティーク木版画のコレクションはイギリスの個人コレクションの中で最大級と認められたこともありました。また、博多人形も多数所有しており、ガラスケースに実物そっくりの色で描かれた磁器製の人形があちこちに点在しています。

Freddie Mercury.com, Ask Phoebe, Blog 86


次に、1977年6月4日号の『SOUNDS』では、ライターのティム・ロット氏に、自らのコレクションについてご機嫌に語るフレディの様子が記事となっている。


Mercury is also not a man to be restricted to music in his subject matter. Long after the interview tape has run out he discourses on his other loves― Japan, Nijuisky (the dancer. not the horse) ballet. He rushes me upstairs to show me a book on Njinsky ― "So ahead of his time" ―and pointing to another astonishing costume: "Can you believe, that". 
His Japanese woodcuts, he enthuses, are his pride and joy. And Japan, well, "you wouldn't believe it darling". He talks of the astonishing Sumowrestlers who have a life expectancy of thirty, are treated like gods, and weigh around twenty five stone. He talks of meeting Mr Sony the man whomakes Sumo the hi fi stuff whose real name isn't Sony. 

また、マーキュリーは音楽だけを題材にする人ではない。インタビューのテープが切れた後も、彼は日本やニジンスキー(馬ではなくダンサー)のバレエなど、他の愛すべきものについて語っています。彼は私を2階に上げて、ニジンスキーについての本を見せてくれました。「これって、信じられる?」
日本の木版画は彼の誇りであり、喜びでもあるという。そして日本については、「君には信じられないだろうね、ダーリン」と言う。それは平均寿命が30歳で、神様のように扱われ、体重が150kg超もあるという驚異的な相撲の話。彼は、本名がソニーではないMr.Sony(相撲推しの人物)(※?!)にも会ったという。

June 4th, 1977 SOUNDS

ティム氏は2021年Twitterで、このインタビューを回想し、フレディはしきりに漆の箱を見せたがった、と述べている。(当該ツイート



最後、1979年5月5日、真駒内公演前に行われた立川直樹氏によるフレディのインタビューでは、浮世絵を購入したことを具体的に語っている。


簡単な挨拶の後で、「北斉の版画を買ったんですってね」と僕が聞いた時のフレディの目の輝き。フレディがことさら自分の殻に閉じ込もるようになってきたのは、ここ3年くらいの間だということだが、フレディ・マーキュリーという人間のバックボーンを考えれば、これも当然のような気もしてくる。
「うん、京都でね。とてもいいものがあったんだ」。フレディは、本当にうれしそうな表情で答えてくれる。
「北斉の他には誰が好き?」
「春信、歌麿、ウーン、他にもたくさん。版画のコレクションは着々と進んでいるよ」
「それはいい。歌舞伎なんかも好きでしょう」。フレディは札幌にくる前、東京や京都などで版画や陶磁器を中心にかなりの買い物をしていたというが、実際に話をしてみると、九谷、伊万里などの陶磁器についても、版画についてもかなりの知識があり、よくある外国人の日本への憧れの域を完全に脱していた。(中略)「とにかく古典が好きだ。それはみんな僕のグレイト・ホビーなのさ」としめくくった。

立川直樹『クイーン 伝説のチャンピオン』1979, 日音楽譜出版 pp.38-39 

さて、冒頭の写真の浮世絵の話に戻る。

ツイッターで「誰の絵だろうか」と呟いたところ(当該ツイート)電光石火で朝潮さん(@kisagoyusura)が特定してくださいました。すごい!すごすぎる!!!


フレディが覗き込んでいた浮世絵は【月岡芳年『風俗三十二相』おもしろさう】 この作品についてはwikiに素晴らしくまとまっています。


さらに、この版画が月岡芳年のものであるとわかってから、立川直樹氏による、素晴らしい後日談があるとの情報をきあろさんが寄せてくださいました。


その話は2020年11月24日(火)ACE HOTEL KYOTO『京都でフレディマーキュリーを聴く』というイベントの中で、立川直樹氏が当時を振り返り語った言葉です。イベントに参加されたJUNさん(@JUN64616781)が連ツイで素晴らしいレポートを上げてくださっているので、一部リンクさせていただきます。





話をおよその時系列で書き出してみると


1976年:イギリスのオークションハウスで浮世絵の収集を始める

1977年:【月岡芳年『風俗三十二相』おもしろさう】他相当数を所有

1979年:日本で葛飾北斎の版画を入手、月岡芳年の『月百姿』を入手

19XX年:英国における浮世絵、個人所蔵の最大コレクションを形成する


立川氏だけでなく、フレディと接したことのある日本の関係者は、フレディの日本文化への造詣の深さに舌を巻いている。フレディの側近はフレディは読書はしない。読んでいたのは建築雑誌とオークションカタログだけだという。フレディは版画の美しさ、本質を見定め、買い求め大切にしてくれていたのだろうと思うと、日本人としてとても嬉しくなる。



その後、フレディのアート収集は、ルイ・イカールダリジョアン・ミロマルク・シャガールに移行する。マドリードでゴヤの絵に出会った時、重要文化財で国外に持ち出せないとわかると、スペインに地所を求めようとしたという。フレディにとって美術はグレイト・ホビーであり、癒しであり、慰めでもあったのだろう。

最後に、フレディのアート収集は、独占するためのものではなかった。マックにダリを、エルトンにティソを、友人たちの好むだろう絵を買い求め、惜しみなく分け与えてもいる。彼一流の粋である。

フレディの愛したアートコレクションは、フレディが望んだ先に相続され、今もきっとガーデンロッジに美しく飾られていることだろう。



 

2023.8.12追記


The Telegraphにメアリー・オースティン氏のインタビューが掲載されました。

この記事に、浮世絵購入エピソードが載っていました。


 

2023.8.6追記


2023年、メアリー・オースティン氏はガーデンロッジに残されたフレディの遺産をサザビーズオークションに出品されました。この出品で彼の浮世絵コレクションの詳細が明らかになりました。また、フレディの蔵書には日本美術の専門書が相当数含まれていました。


今回の出品に月岡芳年の『月百姿』は含まれていませんでした。
















 

参考文献

立川直樹『クイーン 伝説のチャンピオン』1979, 日音楽譜出版

David Evans, David Minns『THIS WAS THE REAL LIFE』2015, Tusitala Press


 

参考サイト

Freddie Mercury.com Ask Phoebe


浮世絵検索 https://ja.ukiyo-e.org/


Sotheby's:Freddie Mercury: A World of His Own(2023.8.6追加)

 

Special thanks on Twitter


朝潮さん(@kisagoyusura) JUNさん(@JUN64616781) きあろさん(@chiaroscuro1610)

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